ピアノソナタ〜私がピアノに触れたとき〜
補修授業って ただの自習


「そーいえば 教科書 教室に置いたままだった」




詩音くん 余裕ありすぎ



こっちは余裕なんてない

まずは得意の英語から始めちゃお





自分の世界に入ること 数十分後


「すー すー」


んっ!

もしかして 寝息…?

それも左側から



横目で見ると…



テーブルに頬をつけて気持ちよさげに眠る 詩音くん。





きゃー!

寝顔も きゃわゆい!!



まつげ、ながーい!


すべすべの肌は 女の あたしより きれいだし。




いやいや、見とれてる場合じゃない!
勉強に集中しなきゃ!!




ところで向かい側に座ってる2人は…?





きゃっ!!

奏斗さまも頬杖ついて眠ってる!!




やだー!

なんで寝顔まで色っぽいのー!!





あたし 今日、学校に来て良かった!






あれ!!


笛吹くんがいない!



もしかして…





歴史コーナーの本棚の隙間から人影が見える。





いつの間に移動したんだろ


忍者みたい。





3人とも それぞれ学年トップだし うらやましすぎ。





それに比べ あたしは 授業に おいてかれないように もがくだけ…。





だめ!


ブラックに近いブルーな気持ちになってしまう!



レッドがかかったイエローな気持ちを持たないと!



努力すれば いつか結果が出る!



だって そーだったじゃん


受験 がんばったから この高校に受かった。




自分を信じよう


自信を持とう。




とにかく勉強!




勉強に集中すれば 変なこと考えないで済む!







ふぅー。



お腹 空いたー。
腹時計が間もなく正午を知らせる。





う〜〜ん。


両手を天に上げて目一杯、背筋を伸ばした。





終わった〜。



補修授業ってゆっても


まさかの自習だったし…。



やっぱ先生たちも土日ぐらいは ゆっくり休みたいよね。



うちら生徒よりも先生の方が土日が待ち遠しいんじゃないのかな。



blessを見ると

2人は ずっと いばら姫のように眠り続けていた。


なんだか起こしにくい。





これから お昼ご飯を食べて、夕食の準備をして


そのあとは花音のお迎えに行って…



……って おばあちゃん いるんだった!



おばあちゃん、本当に ありがとう。




「はいはいはい、時間、時間。
時間だよ」


休日はチャイムが鳴らないから徳山さんが知らせに来てくれた。



「徳山さんにノート提出すれば いいんですか?」


「私は ただの事務員だし、また明日も来るんでしょ?」


「はい」


「明日、提出すれば いいんじゃないかな」


「わかりました」


「窓、窓、戸締まり大丈夫?」


「窓は開けてないです」


「んじゃ、さあ さあ、帰ろう、帰ろう」


笛吹くんがショルダーバッグを掛けながら


「明日もあるんだ」


「うん」


「…ふ〜ん」


徳山さんが眠る2人の肩を揺する。


「起きた、起きた」


「……ねむぃ」


「眠るなら学校の外で寝ておくれ」


「は〜い」


いや〜ん

寝ぼけながら詩音くんが答えてる。


詩音くんが外で寝てたら襲われちゃいそう。



「明日か…」


笛吹くんは右手で頬をさすりながら


「明日はダチと原チャリを…」



何かをつぶやいてた。





「ふあ〜 いっぱい寝たら スッキリした。
奏斗くん、帰ろー」


blessの2人は午後は何して過ごすんだろ。


「アルパ、アルパがオレを待ってる〜」


一流アーティストたる者、努力をするのか…。


余裕があるように見えても

きっと知らないとこで

見えないとこで

すっごい努力してるのかも。






「笛吹くん、じゃあね」


駐輪場で挨拶を交わすと


「青柳さん、午後は何するの?」


「部屋の掃除して、勉強するよ」


「…そう」


「笛吹くんは勉強しないの?」


「多少はするが…」


多少… って 元から勉強 出来る人なのね〜。


「オレ… 青柳さんの…



いや、何でもない…」


「ふえっ!
あたしの何?」


「深い意味はないんだ。

明日は午前中ならOKだし、また来る」


「ええっ!?」


「じゃあ」


笛吹くんは謎の言葉を残して去って行ってしまった。




笛吹くん





やっぱり 変なコ。







「ただいま〜」


「お帰り」


「おねえーちゃーん!」


あれ、花音の目が赤い…。



「っぐす… オモチャ こわれたー」


げげっ!

ばれてっぺよ!


「遊びすぎて壊れたんだ。
いっぱい あんだし1つぐらいで めそめそすんな」


おばあちゃん、ナイス!


「ぴあの… ぴあのぉ」


ピアノ!?


「朝から この調子で保育園に行ってねぇんだ」


「ピアノって花音が ばんばん叩くように弾いてた…」


「けん盤がぽろって取れたんだ」


ああ、ミニグランドピアノか…

ほっとした。


子供用ながらも やっぱピアノの一流メーカーから出しただけあり なかなかの音色で和音も綺麗だった。


かなり持ったけど、今回のコで何代目だろう…。


「おねえちゃんの ぴあの〜」


「花音、覚えててくれたんだ。
あれは お姉ちゃんは使わなくなったから花音の物になったんじゃない」


「っぐす、おねえちゃんがひいてくれてたー!
もう、きけない〜」


時たま、花音に弾いてって、おねだりされて簡単な童謡を弾いてたから。


「うるさくって、たまんねぇ。

そこの商店街さ行って買ってやっぺ!

早く、昼飯 食って行くぞ!

琴羽も ごっこと食って行くぞ!」


「え〜、あたしも行くの!」


「当たりめぇだろ。
荷物持ちに、
呉服屋の奥さんが今日の午後には新しい服が入ってくっからっつーことで、おらが洋服 選んでる間は花音のめんどー頼んだぞ!」


「はーい」


一番の目的は服かい!


きっと花音を保育園で預かってもらってるうちに買い物しようとしたけど予定が狂ったんだろうね。








「おらは そこの呉服屋で服を選んでっから、それまで ここのオモチャ屋に2人は いろ」


「わかった」


あたしも そーだけど一目惚れする洋服があれば すぐ決まるけど…

洋服1枚 選ぶのに どれぐらい時間がかかるんだか。



オモチャ屋の扉を押すと


『からっ からっ』


と軽やかな鈴の音があたしたち2人を招き入れる。


「いらっしゃい、こんにちは」


「こんにちは〜」


「こんにちは」


50歳前後の お母さんが 温かい笑顔で招く。


「ミニグランドピアノが欲しいんです」


「ピアノねぇ、今は在庫がないから取り寄せになるわ」


「入るまで待ちます」


「ありがとうございます、ピアノでも メーカーがあるけど…」


「今まで使ってたのと同じのが欲しいんです」


「ちょっと待っててカタログを」


とお母さんは従業員入口に消えて行った。


「花音、ピアノが届くまで少し待っててね」


「……」


ほっぺが膨らんでる。


今すぐ欲しいんだろうね。


花音の年頃は1日1日が長いから…。



「お待たせ〜」


お母さんはタブレットを持って、お目当てのメーカーのHPを開いてくれた。


「いっぱいあるんだ…」


確か本物のグランドピアノのように天屋根が開く32鍵のピアノのオモチャだったはず。

今まではプラスチックで出来た漆黒(しっこく)のピアノだったけど

白練(しろねり)色、紅緋(べにひ)色や木目調がきれいな木材製のまである。

天屋根が開かないタイプのが安いのか…

ミニグランドピアノ1つ選ぶのに かなり悩む。





「お母さん、決めました。
赤色のピアノにします」


「それを注文するわね」


たまには気分をかえて赤も良いよね。


それに今、花音が好きな色だし。


「おねえちゃん、これ ほしい」

声がした方へ商品棚の陰になった右角のコーナーに行くと


「これ、かわいい」


「それっ…」


なぜかオモチャ屋に 鍵盤(けんばん)ハーモニカが1台のみ置いてあった。


「かって!」


「鍵盤ハーモニカだよ…」


「ほしい!ほしい!」


値段を確認すると3千円未満。


まだ 返してない、昨日 お父さんから もらった お金でお釣りがくる。

いつもなら だめ!

って買わない…


「ほしい!ほしい!」


花音が通う保育園の年長になったら必須アイテムだし、そろそろ購入する物。


あたしが通った保育園はハーモニカだったから お父さんのお古をもらった。


今でも勉強の息抜きにブルースハープをスーハー吸って適当に奏でてる。



お父さんの血筋かな、

楽器を奏でると落ち着くんだよね。


「その鍵盤ハーモニカ、かなり お安くなってるよ」


お母さんの後押しもあり

サーモンピンク色の鍵盤ハーモニカ


「買います」


購入した。


「鍵盤ハーモニカは あたしが支払いますが、ミニグランドピアノは もう少ししたら おばあちゃんが来ますので、おばあちゃんに買ってもらいます」


「はい、ありがとうございます」


おばあちゃん、あたしが就職するの楽しみに待っててね。




「やったー!かわいー!」


花音のために購入した 鍵盤ハーモニカだったけど


のちに あたしを助けてくれる重要なアイテムになった。
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