クールな彼と放課後の恋
…稲瀬のキスのこと?




「い、言ってないよ!」

「言っただろ。俺がキスするタイミングがどうのって」

「…あ」


もしかして、あれのことかな。




“稲瀬ってキスするとき、いつもなに考えてんの?”


“稲瀬っていつも急にキスしてくるから…そのタイミングって何かあるのかなーって…”





「い、言ったかも…」

「かもじゃなくて言った」

「そ、そうですね」


でも、それが何なんだろう…




「あんなこと言われたから、出来なくなった…」

「…どうして?」

「恥ずかしいだろ…」


私に背を向けて、首筋に手を当てる稲瀬。

気づかれないように後ろからそっと覗くと、稲瀬は恥ずかしそうな顔をしていた。




ちょっとかわいい…





「見んなよ」

「あ…」


覗いてることがバレて、稲瀬に頭をグイッと押されて離される。

よっぽど恥ずかしいみたいだ。





「じゃ、じゃあ…このまま聞いて」


私は稲瀬の後ろからぎゅっと抱きつき、背中から伝わる温もりを感じながら口を開いた。




「急に稲瀬が遠くなった気がして、すごく寂しかったの…私付き合うのとかって初めてだし、キスとかそういうのすっごく恥ずかしいんだけど…稲瀬から全く触れて来ないのは…やっぱり悲しい」


稲瀬は黙って聞いてくれた。


こんなに稲瀬の前で素直になれたのは初めて…

ちょっとくすぐったい気もするけど、すごく優しい気持ちになれる。





「お前…それは反則」

「え…」


急に豹変したように、稲瀬はくるっと振り返り私を押し倒してきた。





「い、稲瀬!あのっ………」


私の上に覆いかぶった状態で、稲瀬は私にキスをする。

そのキスは、初めて体験する大人のキス…私は答えるのに必死。




このまま、一線を越えようとしてるのかな…?

それはまだちょっと…





「悠って呼んで」


唇が離れたと思ったら、稲瀬は私を上から見下ろして見つめてそう言った。
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