クールな彼と放課後の恋
永井の口から『香穂』と出てきた瞬間、私は永井の着ているカーディガンの胸ぐらを掴んだ。




「な、なにすんだよっ…」

「あんたね!香穂のことどう思ってんの!?中途半端にして、傷つけたりしたら許さないからね!」


香穂の話によると、一方的にキスしたらしいし!




「んだよ…お前に筒抜けかよ。別にいいけど、なんで俺がお前に怒られなきゃなんねーんだ」


永井はケッと笑った。




「香穂があんたのことで悩んでたから!キスしたなら、ちゃんと最後まで責任取りなさいよね!」

「…キスも筒抜けかよ。ま、いいや。だからこれから香穂と映画に行くんだよ」

「え?」


永井は私から目をそらし、口をとがらせた。




「なんか舞い上がって一方的にキスしちまって、ちょっと気まずくなったんだよね。告るタイミングなくしたっつーか…だからデートしたあとにでも、ちゃんと告白しようかなって…順番逆だけど」

「………」


私は、掴んでいる永井のカーディガンをそっと離した。





「そう…なら……許すよ」


永井って、思ってたよりもちゃんと考えてるんだな…

チャラそうだけど、恋愛は結構真面目そうだし…




「…ったく。お前は、なんで俺にはそんなに暴力的なわけ?悠にはそんなこと絶対しねえくせに」

「ゆ、悠は私を怒らせたりしないから!」

「んじゃ…今1人でいるのは、悠と喧嘩したからじゃないんだ?」

「え?」


永井の表情は、明らかに私を見透かしていた。

私が買い物をするために1人でいたなんて、全然思ってないような顔だ。


悠も永井も、こういうところ鋭い。だから私は嘘がつけない。




「喧嘩じゃないよ…悠とは順調だし」

「だろうね。お前らが喧嘩するって…中々ないどろうから、きっと喧嘩したらお前はもっとひどい顔をしてるよ」

「悪かったね、ひどい顔をしてて」


ちょっと泣いたからメイクが取れたし、最悪な顔ですよきっと…




「ま。俺はこれからデートだから♥あとは悠に側にいてもらえ」

「…悠って……?」


永井が私の後ろを指さして、ニヤリと微笑んだ。

振り向くと、さっき永井と会った横断歩道の向こう側に悠の姿が…

飛び出した私を追いかけてきてくれたのか、悠は息を切らし私を心配そうに見ていた。




「じゃあな。また学校で」

「う、うん!香穂によろしく!あ、永井!」

「あ?」


駅の方に向かう永井を、私は引き止めた。





「ありがとね」


永井に手を振りながら、やや控えめに笑う。




「ああ。悠ならなんとかしてくれるよ」


そう言ってニッと白い歯を出して笑い、永井は小走りで駅の方へ行ってしまった。


永井のことが、なんだか友達として好きになれた瞬間だった…
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