悪魔な秘密の巫女男子
僕は、「お疲れ様です。」と小さくつぶやいてから
運転席の男性に軽く会釈をする。
会釈を返されたが、
この人の名前も、声も聞いたことがない。
軽くスライドドアを閉めて
遠くで見える二人に目をやる。
実に自然な感じで、
イチノさんが鞄を振りかざして、
さりげなく
ニノさんが スマホで あたりの『気』を散らす。
なんてことない 普通の人。
そういう印象だ。
こんな、霊能力者的なのってもっと
ほら、御札使ったり、お坊さんが持っている杖みたいなの持ったり、
そういうイメージだが
全然 思ってるのと、違う。
まぁ、分かる人が見たら
ニノさんの手に持っているスマホは、
剣のように鋭い『気』で覆われているし、
イチノさんの持っているカバンは、
大きなハンマーみたいな武器の『気』でおおわれている。
「すごいな。」
思わず、つぶやく。
「・・・。こほん。」
小さく 咳払いが聞こえて、
運転席から、
タオルと、救急セットが渡される。
「あ、ありがとうございます。」
忘れてたけど、左足の負傷。
とりあず、
たくし上げて、
靴下を脱ぐ。
ってか、靴下も、溶けて?
もう 使えないな。
まぁ、擦り傷程度の
かわいい傷。
一応、消毒しとこうかな。
*
ぽいっと靴下を脱ぎ捨てたところで、二人のセンパイが返ってきた。
「なんだ、アサヒ、
大丈夫か?つかまれたのか?」
「イチノさん。そうなんですよ。
赤くなってますが、大丈夫ですよ?」
「こんなの、はじめてですね?
アサヒ君を 引っ張っていったような・・・」
「え?ニノさん、どういう・・・?」
「あぁ、取り込もうとしたかもしれませんね。
でも、衣服を溶かすだけでよかった。」
「ちょ、一歩間違えれば、
僕、 溶かされてたってことですかぁ?」
思わず、涙ぐむ。
いまになって恐怖が・・・
ニノさんが
ひょいと慣れた手つきで
消毒液を吹き付けて
ぺたり と大きめの絆創膏を貼る。
「ははは。
な、特別手当弾むから、 気にすんなよ!」
「いや、イチノさんっ!」
そういう問題じゃぁ・・・
まぁ、もう靴下ははけないなぁ。
なんて思いながら
靴のかかとをつぶしてはきなおすと
コンコン
と車のドアをノックされた。
今まで、どこにいたんだろう「課長・・・。」