四十九日間のキセキ
 ひと言礼を言い急ぎ紗弥加のもとに向かおうとする二人のもとに受付の女性が声をかけてきた。

「もし分からなかったらナースセンターで聞いてみてくださいね」

「はい、ありがとうございます」

はやる気持ちを抑えつつ紗弥加の待つ病室までたどり着いた二人。そこで孝之は慌てた様子で声をかける。

「大丈夫か紗弥加!」

「何よお父さんまで来てくれたの? 大丈夫よ心配ないわ、それよりそんな大きな声を出したらほかの患者さんの迷惑になるじゃない」

「そうだったなつい心配になってしまって。すみません皆さん」

同室の患者に一言詫びを入れる孝之。するとそのうちの一人から返事が届いた。

「いいえ構いませんよ。お父さんも娘さんのことが心配だものね、その気持ちわかりますから」

「そうなんですよね、男親にとっては娘というのはいつまでたっても心配なものです。それがこんな病気になってしまってはなおさらです」

 ここで孝之は一つ気掛かりなことを紗弥加に尋ねる。

「それより紗弥加、病気の事拓海君に伝えたのか?」

その問いかけに突如として表情を曇らせ俯いてしまう紗弥加。

「そのことなんだけどね、拓海には黙っておこうと思って」

「どういうことだ?」

「別れようと思っているのよ」

紗弥加の口から放たれたまさかの言葉に、香織が慌てるように尋ねる。
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