四十九日間のキセキ
「あたし婚約者がいたけどあたしの方から言って分かれてもらったの」

「婚約ってことは結婚も決まっていたんだろ、それなのにどうしてそんなことしたんだ」

「お母さんたちから聞いてないあたしの病気の事」

「それとなく聞いたけど」

「それならわかるでしょ、乳がんなのよあたし、もし助かったとしても抗がん剤の影響で赤ちゃん産めなくなるかもしれないし、この胸だってなくなってしまうかもしれないのよ。何より彼に迷惑かけたくないの」

「その彼というのは紗弥加の病気のこと知っているのか?」

心配の表情で尋ねる隼人。

「ううん知らない。彼には何も言わずに別れたから」

「お前それほどまでにその彼のこと好きだったんだな。良いのかほんとにそれで」

「良いわよ。彼にはあたしなんかじゃなくもっと体の丈夫な人と結婚してほしいわ」

そう言う紗弥加の表情はどこか悲しげであった。

 その日の夜、隼人は久しぶりに高校時代の仲間である朝陽に電話をかけた。

「もしもし隼人か、久しぶりだな? 突然どうした」

『なあ朝陽、今紗弥加が病気で入院しているの知っているか?』

 仲間の紗弥加が入院していると知って驚いてしまう朝陽。

「何だよそれ初耳だぞ! ほんとなのかそれ」

『ほんとだ。この前病院であいつの両親に会ったんだ。その時紗弥加が入院しているって聞いて今日見舞いに行ってきたんだよ』

「そうなのか。それでその病気って何なんだよ、治るんだよな?」

『治るかどうかは分からない。ただあいつの病気は乳がんだそうだ、しかもあまりよくないらしい』

「そうなのか? 葵にも伝えておくよ。俺は仕事があるからすぐには行けないかもしれないけど、隼人が今度見舞いに行くときには葵も一緒に連れて行ってくれ」

『分かった。今度行くときには連絡するよ』
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