四十九日間のキセキ
この日は香織も家におり、その香織が応対に出る。

「また来たのね」

「お願いですお義母さん、一度だけでいいんです、紗弥加に会わせてください。突然別れると言い出した理由を聞かせてください」

「ごめんなさい無理なのよ」

「どうしてですか、そもそも僕のことを嫌いになったわけでもないのに別れるなんて意味が分かりません。何か訳でもあるんですか」

「ごめんなさい拓海君、ここまで心配してくれて親としても嬉しいわ。でもこれがあの子の意志なの」

「分かりました、もう諦めます」

ここで慌てるように拓海を引き留める香織。

「ちょっと待って拓海さん」

「何ですか?」

「渡したいものがあるの、今持ってくるから少し待ってて」

そう言い残すと香織は奥へと消えていくとすぐに戻ってきた。

奥から戻ってきた香織が手に持っていたのは見覚えのある二つのケースであった。

その二つのケースを拓海の前に差し出す香織。

「これあなたがあの子に渡したネックレスと指輪。自分から別れを告げておいて頂いたままでは申し訳ないからって。だから返すと言っているのよ」

「どうして紗弥加は自分で返さないんですか。それに一度渡したものを受け取れません!」

「そう言うと思ったわ、でも受け取って」

「だからこういうものは自分で返すのが筋じゃないんですか?」

「申し訳ないけどあの子には今あなたに会えないわけがあるのよ。お願い分かって」

「何ですか訳って」

「それは言えないの。とにかく受け取って」

「さっきも言ったじゃないですか、一度あげたものを受け取れません。一度紗弥加にあげた以上紗弥加のものになったんです、そちらで質屋に入れるなりなんなりしてください」

「分かったわ、仕方ないわね」

結局ネックレスと指輪は返すことができず、拓海は静かにその場を後にした。
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