四十九日間のキセキ
「その前にまずはお母さん方のお話を伺いましょう。お話というのはどういった件でしょう?」

その問いかけに孝之が話し始める。

「これまで娘は通院での治療ではなく入院での治療をお願いしていましたが、その娘が退院したいと言い出しまして、先生からの許可がいただければの話ですが退院させてきただけないでしょうか?」

ところがこのあと坂本の口から語られた現実は辛いものだった。

「お話というのはその件でしたか。実はわたしからの話もその件でして」

「なんですかその話というのは」

孝之が尋ねるとさらに続ける坂本。

「わたしもできることなら退院の許可を出してあげたいのですが先日の検査により肺への転移が確認されました」

香織が悲鳴ともとれる声で尋ねる。

「手術したのにどうして」

その悲しい声に坂本が申し訳なさそうに応える。

「確かに手術で左乳房と共に転移したリンパ節も切除しました。ですが手術で取り切れなかった小さながん細胞が残ってしまって、今回それが肺へと飛んでしまったのかと思われます。そうならないために手術後も抗がん剤治療を行っていたのですが」

坂本の説明に涙声で問いかける香織。
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