四十九日間のキセキ
「もしもし隼人か?」

『なんだ朝陽』

「最近紗弥加の所に見舞いに行ったか?」

『最近行けてないんだ。なんかあったか?』

「今日葵と一緒に行ってきたんだけど、あいつの髪の毛がな」

髪の毛という言葉に予想はついていたが、それでも自分の口からは言いたくなかった隼人。

『髪の毛がどうしたんだ?』

「大量に抜けていたんだ。抗がん剤の影響だそうだ」

『やっぱりそうか。最初に朝陽の口から髪の毛という言葉が出て何となくわかったんだけど、元カノの髪の毛がそんなことになってしまうなんて信じたくなかった』

「抗がん剤の副作用はそれだけじゃないらしい、吐き気なんかもあるそうだ、病室に洗面器が置いてあったよ。あいつ気を使って精いっぱいの笑顔で俺たちと話していたよ、俺たちの前では気を使わなくていいのに。それでいて俺たちが帰るというと寂しそうに引き留めるんだ」

『あいついつもそうだよな、俺たちが帰るというと寂しそうな顔して引き留めるんだ。きっと一人ぼっちで心細いんだろうな?』

「そうだなきっと」

『近いうちに俺も行ってみるよ』

「そうしてやってくれ、あいつも喜ぶから」 

こうしてこの日は電話を切った。
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