四十九日間のキセキ
「ところでその点滴は抗がん剤か?」

「そうよ。今日から始まったの」

「そうか。また辛い治療が始まったんだな? 辛くてもそれに耐えて頑張れよ」

「うんありがとう。あたし頑張るね」

その日の夕方、そろそろ隼人が帰ったころだろうと香織が病室に戻ってきた。

「望月君まだいる?」

「もう帰ったわよ。ごめんねいつも気を遣わせちゃって」

「良いのよ別に気にしないで。若い人同士の方が話しやすいでしょ?」

すると紗弥加がテレビカードを見せながら嬉しそうに声をかける。

「それよりこれ見て」

「テレビカードじゃない、どうしたのそんなに」

「さっき隼人が来てくれたでしょ? その時下で買ってきてくれたの」

「そう、でもどうしてテレビカードなの?」

香織が疑問の表情で尋ねると、その理由を語り始める紗弥加。

「前にあたしがテレビカードを買わないといけないからテレビを見るのを控えてラジオを聞いているって言ったの」

「そういう事があったの? いいのよ別に見ても、テレビカードくらい買ってきてあげるから」
その声に嬉しさを感じつつも遠慮してしまう紗弥加。

「いいのよ見なくてもラジオを聞いていればいいんだから」

「そうなの?」

「だけど隼人ったらあたしがテレビを見るのを控えているのを知ってテレビカードを買ってきてくれたの。こういうものの方が実用的だからって」

「そうだったの。望月君この前はニット帽を買ってきてくれるしいろいろと気遣いの出来る人ね」

「ほんと優しいよね。あたし嬉しくなっちゃった」
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