ゆとり社長を教育せよ。
1.ゆとり社長の秘書
その男――加地充(かじみつる)の担当が代わるのは、これで四度目。
秘書課の人員は四名。
つまり、私が最後の希望ってこと――。
社長室に向かう前、トイレの鏡で身だしなみをチェックしながら気合を入れる。
私のつり気味の大きな目は“キツイ女”っていう風にみられることが多いけれど。
――今日はそれで結構。
むしろ、もっと怖い顔をしていった方がいいのかも。
「待ってなさい……ゆとり王子」
私はダークグレーのスーツに埃が一つもないことを確認すると、自慢の黒髪ストレートをなびかせながら、トイレを後にした。
そこから社長室までの短い距離の間に、加地充に関するデータを脳内でもう一度まとめ直してみる。
加地充、二十七歳。十月一日生まれのO型。
名門私立大学を首席で卒業したにもかかわらず、仕事に対するやる気はゼロ。
年上と敬語が苦手。
趣味はビリヤード。
大事な連絡をメールで済ませる傾向あり。
好きな女性のタイプ……男性を立ててくれる、ふわふわした雰囲気の、お姫様系美女。
「……んな都合いい女子、いるか!」
……思わず口に出してしまった。
でも、幸い社長室に続く廊下は滅多に人が通らないので、誰にも聞かれてはいない。
――とにかく。私は今日から加地社長の秘書。
しかし私に課せられたミッションは、通常の秘書業務だけではないのだ。
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