ゆとり社長を教育せよ。
「美也」
男の人と付き合って、初めて名前を呼ばれる……この瞬間が、私は好き。
普段は名前なんて、ただの記号がわりに使われるものだけど……
恋人の口から紡がれるそれには特別な甘い響きがあって、美也って名前をものすごく愛おしく感じるから。
――ひとしきりソファでじゃれあったあと、充は腕まくりをしてキッチンに立った。
どうやら夕食を作ってくれるつもりらしい。
「美也は何食べたい?」
「……さっぱりしたもの」
それだけ言った私だったけれど、本当はこう思っていた。
“胸がいっぱいで食事が喉を通らない”――なんて、かなり恥ずかしいことを。
「確かにそれがいいかも。明日、胃もたれしそうなデートプランだから」
「胃もたれ?」
キッチンのカウンターに備え付けられた丸椅子に座った私は、彼の言葉に首を傾げる。
「そ。だって、真面目に商品開発しないと美也に怒られるし」
「当たり前です!」
「あ、いつもの美也だ」
クスクスと楽しそうに笑っていた充だったけど、料理が一段落すると私の隣の椅子に座り、ちょっと寂しげな表情を浮かべて言った。
「ほんとにさ、ちゃんとやらないと……せっかく美也とこうなれたのに、ガーナ飛ばされちゃうってなったら、切なすぎるし」