ゆとり社長を教育せよ。
「だから俺は、他人のことでそこまで真剣になってくれる秘書の期待に応えたいし、恋人と離ればなれになるのも嫌だ。……つまり、さ」
カタン、と静かに椅子を立った充が、私の背後に回った。
振り返ろうと思ったら、身を屈めた彼にぎゅっと肩を抱き締められて、それから耳元でこんな言葉がささやかれた。
「……俺を信じて。専務の思うようにはさせないし、美也を一人にして遠くに行くなんてことも絶対しない」
「充……」
いつの間にそんな台詞が言えるようになったの?
ゆとりくんのくせに、生意気。
でも……信じてあげよう。そして、私自身も秘書として、自分にできることをまっとうするんだ。
私は自分を抱き締める彼の腕に自分の手を重ねて、頷く代わりにそこをきゅっと握った。
すると衣擦れの音がして、充のふわふわした前髪が視界に入ってきた。
「ん……」
そうして触れた二度目のキスは、お互いの想いがわかっているからか、一度目よりも優しくて。
そのぬくもりには、ふたりで頑張ればきっと大丈夫って、根拠はないのに思えてしまう、不思議な力があった。