ゆとり社長を教育せよ。
――昨夜は、充が私にベッドを譲り、自分はリビングのソファで眠ると言ってくれたので、そういうことは何もなかった。
私はもしそうなっても拒むつもりはなかったけれど、彼の方から言ったのだ。
『美也を抱くのは、仕事のこと、ちゃんとケリがついてからにしたい』――って。
残念な気持ちはもちろんあったけど、彼の中でも色々真剣に考えてるんだってわかったことは嬉しかったし、彼のことをちょっと見直した。
「……さ、できた」
顔を洗って、メイクの完了した鏡の中の自分を見つめて思う。
……なんか、無意識に気合入ってない?
よく見たらチーク乗せすぎだし、唇のツヤも……
私がグロスだらけの唇を思わず指で拭おうとしたとき、洗面所の扉が開いて充が顔をのぞかせた。
「できた? あ……なんかいつもより可愛い。もしかして、気合入れてくれた?」
「べ、別に、そういうわけじゃ……!」
「違うの? 残念。美也の服、ここ置いとくから、着替えたら出よ」
パタン、と扉が閉まると、ふうと息をついて、再び鏡の中の自分を眺めた。
……このままで、いっか。いつもより可愛いって、言ってくれたし。
そう思うと、鏡に映る自分が少しにやけていて、誰もいないのに恥ずかしくなった。
あー、もうダメだこれ。
高梨美也、完全に乙女スイッチ入ったみたいです――。