ゆとり社長を教育せよ。


そこに映し出されていたのは、またもや“非通知設定”の文字。

充のそばにいて、安心しきっていたからすっかり忘れていたけれど……私昨日、すごく怖い思いをしたばかりだったんだ。

一度きりのいたずらだと思ったのに……どうしてまた?


この場所でテーブルについたまま電話に出ることはマナー違反だとわかっていたけど、静かな場所に移動するのが怖くて、私はその場で電話に出た。


「……もし、もし」


どうせまた何も言わないんでしょ? そんな無意味なことして何が楽しいのよ……

今日は充が一緒に居ることで少しだけ強気の私は、そんなことを考えながら耳を澄ませて相手の反応を窺っていた。

すると……



『――高梨美也か』



ドクン、と心臓が大きく鳴り、スマホを持つ手にじっとりと汗が滲んだ。

聞こえてきたのは男か女かもわからない気味の悪い声……きっと、何か機械を通して声を変えているんだろう。


充……!

助けを求めるようにドリンクコーナーの方を振り返ると、彼は近くのテーブルに飲み物を置いていて、何故か客の一人と思われる男性と笑顔で名刺交換をしていた。


『残念だが、こちらの電話が終わるまで彼はテーブルに戻らない』


……なにそれ。まさか、あの男の人もグルってこと……?

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