ゆとり社長を教育せよ。
「あなた、誰なの……?」
『お前からの質問に答えるつもりはない。言いたいことはただひとつだ』
平和なはずのホテルのレストラン。その従業員も、のんびりとティータイムを楽しんでいるはずの人たちも、みんなが敵に見えてくる。
それでも電話を切る勇気がなく、相手が言葉を継ぐのをただじっと待っていると。
『――加地充に、別れを言い渡すんだ』
「え……?」
予想もしなかった言葉が耳に入り、私は眉根を寄せた。
『お前たちは付き合っているんだろう?』
……どうして知ってるの?
付き合うことになったのはつい昨日の夜のことで、私と充以外にそのことを知る人はいないはずなのに。
それに、いきなり“別れろ”って一体……
「なんで、見ず知らずの相手にそんなこと指図されなきゃならないのよ……」
『お前からの質問には答えないと言っただろう。こちらの言う通りにしなければ、加地充に危険が及ぶことになるぞ』
「危険……? 」
スマホを耳に当てたまま、再び充の方を振り返る。
彼はまださっきの男性と談笑していて、私の視線には全く気付いていない。
『……話は以上だ。わかっているとは思うが、この電話のことは誰にも口外しないように』
「ちょっと、待ちなさ――」
私の言葉は無視され、通話は呆気なく途切れた。
なんなの……?
電話の相手が誰なのかも、ソイツの目的も……
向こうの情報が一切わからないから、ただ不安になる。