ゆとり社長を教育せよ。


「おはようございまーす……」


あまりよく眠れない日が続いて、朝から重たい頭を片手で支えるように秘書室へ入っていった私。

珍しく秘書課の中で私が一番遅い出勤だったようで、すでに他の三人の姿が室内にあった。

そんな中、先輩の佐和子さんが私の姿を見るなり慌てた様子で駆け寄ってきた。

どうしたのかと思っていると、彼女は私の両腕をがしっと掴んで言う。



「美也ちゃん……大変! 社長が駅のホームから落ちたんですって!」

「え……?」



自分の顔からさあっと血の気が引いて行くのがわかった。

駅……ホーム……電車……

その先まで考えるのが怖くて、無意識に身体が震えてしまう。


「怪我、してるんですか……?」

「詳しいことはわからないんだけど、救急車でT大病院に運ばれたらしいわ。美也ちゃんも行った方がいい」

「わ、かり、ました……」


話を聞いて、咄嗟に浮かんだ映像は、駅のホームで充が誰かに背中を押される場面。

でも、どうして彼は駅なんかにいたの?

いつもなら、自分の車で出勤しているはずなのに……


泣きたいような気持で会社を出て、すぐにつかまえたタクシーで病院に向かった。

私が悪いんだ……

充と別れたくないって、自分の幸せのことしか考えずに、嫌がらせの相手の言葉に従わなかったから……


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