ゆとり社長を教育せよ。
「今朝……会社行こうと思ったら、俺の車二台ともタイヤがパンクさせられててさ。仕方なく駅に向かったら、今度はホームで誰かに背中押されたんだ。……ちょうど電車は行ったばかりだったから大した怪我はなかったけど、さすがにビビった」
やっぱり、誰かが悪意で充を……
悪い予感が的中し、私は充に対する申し訳なさから膝の上でぎゅっと拳を握った。
「ごめんなさい……たぶん、私のせいなの」
こんなことになるまで決心がつかなかった自分が情けない。
充が危険な目に遭うかもって、わかっていたのに……
「……美也のせい? なんで」
「理由は聞かないでほしい。でも、今までの色んなこと……カッターも、コーヒーの火傷も、たぶん全部私のせい。だからね……」
今、充は仕事だけを頑張るべき大事な時期なんだ。
そして、私も……恋愛に浮かれるんじゃなくて、秘書としてしっかり彼をサポートしなさいって、きっと、神様がそう言ってるんだ。
「別れよう? 私たち……」
彼の目を見つめて言うことはできなかった。
代わりに、天井の蛍光灯を反射してぴかぴか光る病院の床を意味なくじっと見ながら、私は彼の答えを待った。