ゆとり社長を教育せよ。
怪我の処置を済ませ、病院の廊下を歩きながらそんな推理をしていると、角を曲がったところで美也の姿を見つけた。
受付の前で何か必死で訴えていて、たぶん俺のことを聞いているんだろうと思ったけど、あそこは一般の外来患者の受付。
たぶん話は通じないだろうし、少し考えればそのことがわかるはずなのに、相当余裕をなくしているらしい美也は全く気付いてないらしかった。
……そういうとこが可愛いんだよね。
超愛されてるじゃん、俺。
そんなちょっとした幸せに浸りながら彼女に声を掛け、とりあえず朝の出来事を話すと、美也の表情は一気に暗くなった。
そして思いつめた様子で、俺の周りで起きる色々な災難は自分のせいだと語った。
美也も犯人に心当たりがあるのか?
そういえば、無言電話の件は最近どうなっているんだろう……
それらの疑問を、彼女にぶつけようとした時だった。
「別れよう? 私たち……」
震える声で、美也はそう言った。
「……え?」
俺は耳を疑ったが、彼女はどうやら本気で言っているようだった。
「お願い……誰が充にこんなことするのかはわからないけど、私たちが別れればきっと落ち着くはずなの」
そんな台詞を言わせるくらいに美也を追い詰めた犯人たちが憎いし、奴らの思惑通りに別れてしまうのは癪だ。
だけど、奴らの尻尾を掴むためには、俺と美也が別れた姿を見せておくのも有効かもしれない。
そう思った俺は、静かにこう言った。
「……わかった」