ゆとり社長を教育せよ。


「……この企画書、書き方がめちゃくちゃです。いつもこちらが作成したものを最終的に社長も確認なさってるはずですが、あまり記憶にありませんでしたか?」

「え! ……と、その。すいません、皆さんを信頼しているので……といえば聞こえはいいですが、わりとサラッと読んでハンコ押してました、いつも」


……やっべ。開発部から上がってくる企画書だけじゃない。

どうせ、俺が読む前に各部の部長がちゃんと見てるだろうし、俺の前に有能な副社長も判を押してあるし……てな感じで、いつも機械的にやってた。ハンコを押す作業。

あからさまに焦って小さくなる俺を、最初は黙って見ていた霧生さんだったけど、しばらくすると堪えきれなくなったように吹き出す。


「……ふ、すいません、社長の前で。でも、我慢できなくて」


なんで笑われてるんだろ? 怒るとこじゃないのか、これ?


「ほんと、高梨から聞いてた通りの人だな。企画書は、大丈夫です。こちらに雛形がありますので、その通りに打ち直せば」

「……よ、よかったー。脅かさないで下さいよ。俺、実はこの商品ヒットさせないと海外に飛ばされるんです」


安堵のため息を漏らしながら思わずそうこぼすと、霧生さんが眉間に皺を寄せる。


「海外? ……なんですかそれ」

「あ……あんまり一般の社員の前で言うことじゃないんですけど。霧生さんにはもう一つ別件でお話があって、それにも関わることなので……」

「別件……?」


そっちの話は、こんなにオープンな場所では話しづらい。

俺は霧生さんにそう言って、仕事の後で再び会う約束を取り付けた。


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