ゆとり社長を教育せよ。
「ははぁ……社長みたいな人はこういうとこで遊ぶんですか」
久々に訪れた行きつけのバーに入ると、霧生さんは物珍しそうに店内をキョロキョロ見渡した。
「面白いですよ? ダーツもビリヤードもハマると」
「へぇ……俺は休みの日はもっぱら草野球なんで」
ああ……っぽい。めっちゃ野球似合う。って、霧生さんは年上だから言えないけど。
「元野球部ですか?」
「はい」
「俺は坊主と努力がいやだったんで、帰宅部です」
「ああ……っぽい。ですね」
だよねー……って、言っちゃうのかよ! そっちは!
俺、いちおう社長なんだけどな。
そんな取り留めもない会話をしながらカウンター席に着くと、霧生さんはビールを。俺は車なのでコーラを頼んで本題に入った。
「海外に飛ばされるってやつ……行き先はガーナで、同時に社長の座を専務に奪われることになってます。逆に、新商品がうまく売れれば、飛ばされるのは専務の方。
その専務ってのが俺のイトコなんですけど、自分の方が仕事できるのに俺が会長の息子ってことだけで社長の役職についてるのが気に食わないみたいで……」
「……まあ、そりゃそうでしょうね。たぶん、専務以外の役員もそう思ってるんじゃないですか?」
バーテンからビールのグラスを受け取った霧生さんが、あっさりと言い放つ。
そう本当のことを言われてしまうとちょっと傷つくけど、今の論点はそこではないので凹むのは後にするとして。