ゆとり社長を教育せよ。
「そのいざこざに、関係のない美也まで巻き込まれてるんです」
「……高梨が?」
霧生さんの顔色が変わった。やっぱりまだ美也に未練があるのかもしれない。
それなのに俺たちの仲を取り持つようなことをするとは、さすが元球児。とことん爽やかないい人だ。
「美也に無言電話を掛けてくるやつがいるんです。俺はそれが専務の差し金なんじゃないかなと」
「無言電話……?」
「はい。それで、ここからは俺の勝手な推測ですけど、そいつに俺と別れるように言われたみたいなんです。
たぶん、専務は美也が有能だからビビってるんじゃないかな。俺がバカでも、秘書の美也の能力でいい新商品が生まれてしまうかもって。だから、二人同時にダメージを与えるために、美也を巻き込んで……」
……卑怯なやり方だ。ガーナのことは自分から提案したくせに、裏でコソコソして。
俺はコーラをのどに流し込み、弾ける炭酸の刺激で苛立ちを抑え込む。
「……でも。専務がやったって証拠はないんですよね?」
「そう、なんですよね……。でも、専務の手先となった男ならわかってます。
先月、まだ美也が俺の秘書になったばかりの頃に、彼女この店の近くである男に襲われかけたんです。その時は俺が偶然居合わせたから事なきを得ましたけど、ソイツがどうやらまだ美也をしつこく想い続けてるみたいで……
たぶん、専務はそれを利用したんじゃないかと」
「なるほど。そいつに色々吐かせてみれば、専務の名前が出るかもってことですね。でも、社長……」
コトリとグラスをカウンターに置いた霧生さんが、俺の方を見る。