ゆとり社長を教育せよ。


「結局社長は、その犯人の望み通り高梨と別れたんですか?」

「ええ、つい昨日のことですけど。そうした方が、犯人も油断して姿を現すかと思って」

「油断……っていうか。つまり、二人が別れたと知った犯人が、高梨に接近しようとするってことですよね……普通に考えて、彼女の身が危なくないですか?」


俺たちの周りの空気だけ、一瞬流れが止まったように感じた。

男二人で目を合わせて、顔を強張らせる。

別れることにしたのは昨日の朝こと。今日の会社での美也を見る限り、昨日のうちに危険が迫ったってことはなさそうだったけど……


「で、電話……!」


油断してたの、俺の方じゃん!

だからゆとりくんって馬鹿にされるんだよ!

ズボンのポケットからスマホを取り出すと、素早く美也の番号を出して耳に当てる。

出てくれ、お願いだから……!



『……もしもし』



すぐに途切れたコール音。そしてとりあえず無事らしい彼女の声が聞こえた。


「美也! 今どこ!?」

『今……? 自宅近くの、コンビニから帰ってるとこです』

「じゃ、コンビニに戻って! 一人になるな! 俺、迎えに行くから!」

「迎え? いりませんよ、もうすぐですもん、家まで。それに私たちはもう……」


別れたから関係ないって? そんなわけないだろ。って、今はゆっくり愛の告白をしている場合じゃない。

でも、どう言えば伝わるんだ……


俺が言葉を探していると、手の中のスマホが霧生さんに奪われた。

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