ゆとり社長を教育せよ。
「高梨、お前ホント危ないからコンビニ戻れ!」
彼が説得をしている間に、俺は車のキーを出して席から立ち上がる。
その瞬間、スマホを耳に当てたままの霧生さんの表情が、一気に険しくなった。
「もしもし高梨……? 返事しろ返事!」
「どうしたんですか?」
「くっそ…………切れました」
苦々しく呟いた霧生さん。俺たちは無言で頷き合うと、上着を着て店を出た。
車を停めてある近くのコインパーキングにダッシュで向かいながら思い出すのは、無言電話のあったあの日のこと。
もし自宅の場所を知られていたら――それを考えて、いつも強気な美也が怯えていた。
ゴメン、美也……肝心な時に不甲斐ない俺で……
「場所、わかるんですか?」
「美也の家なら。とりあえずその近くのコンビニを検索して……」
車に乗り込んだ俺は、ナビの画面に手を伸ばす。
そのとき、ズボンのポケットでスマホが音を立てた。
慌てて確認した画面には、【着信 高梨美也】の文字。
「もしもし、美也……?」
助手席の霧生さんと目を見合わせながら電話に出ると、その向こうから聞こえた声は美也のものではなかった。
『……しつこいよ。別れたんでしょ、きみたち』
「お前……っ」
電話越しにでもすぐにわかった。
昨日、俺の背中を押した男と同じ声だと。