ゆとり社長を教育せよ。
その緊張感のない台詞とは対照的に、玄関の方はドタドタと騒がしかった。
そして勢いよく部屋の扉が開くのと同時に顔を出したのは。
「美也!」
「……み、つる……」
来た……ゆとり急便のイケメン配達員。
でも、遅いし。ほんとに配達員みたいなカッコしてるし。
なんなの? それ……
「どこも、なんともない?」
近付いてきた彼に顔を見られたくなくて、静かにうつむく私。
でも、下を向いたのは間違いだったかも。
やば、泣きそう……
「いいよ、泣いて」
「別に、泣きたくなんて……」
「……声震えてるって」
そんな言葉とともに、ふわりと抱き締められた身体。
もう別れたんだから、こんなことしないでほしいのに……
私の手は勝手に充の服をぎゅっとつかんでしまうし、彼の胸には溢れる涙がしみ込んでいく。
「……美也、今日、誕生日だったんだ?」
「……うん」
「いくつになったの?」
「……喧嘩、売ってる?」
泣きながら言って彼を睨んだ私。
充はふっと笑みを洩らすと、ますます強い力で私を抱き締めた。