ゆとり社長を教育せよ。
「よかった。元気そうで。美也と電話がつながらなくなったとき……心臓止まるかと思った」
「……止まったら死ぬわよ」
「うん。で、美也がまた泣く」
……それはさすがに否定する材料が見つからない。
充は黙ったままでいる私の顔にそっと手を添えて、自分の方を向かせた。
「俺が死んだら、泣くでしょ?」
わかってるくせに、いちいち聞かないでよ……
あなたの求めてる答えは、言ってあげないんだから。
「……私より若いんだから、先に死ぬなんて許さない」
彼の瞳を見つめてそう言うと、頬に触れる手が熱を帯びて、充の顔が近づいてきた。
胸が高鳴り、自然とまぶたを閉じた私。
そして唇と唇の距離が限りなくゼロに近付いたその時――
「――少しは俺の立場ってものを考えて欲しいんですけど」
ぴたっと動きを止めた私たち。
そして二人そろって声のした方を振り向けば、扉の枠にもたれて腕を組み、呆れた顔をする霧生くんの姿が。
そ、そういえば電話で話した時にも不思議に思ったんだった。
どうして充と霧生くんが一緒にいるのかって……
「霧生さん。あと数秒だけ待ってくれればよかったのに」
「そりゃいやがらせに決まってるじゃないですか。泣く泣く諦めた女とライバルとのキスシーンを黙って見てるわけがないでしょ」
……しかも、なんか仲良さそう。そして霧生くんもどうして配達員の格好?
「……それもそうですね。で、アイツは何か吐きました?」
私から離れた充が、そう言いながら霧生くんの元へ歩み寄る。
「ええ、あっさり吐きましたよ。社長の予想とは違ったみたいですけど」
「え……?」