ゆとり社長を教育せよ。


「よかった。元気そうで。美也と電話がつながらなくなったとき……心臓止まるかと思った」

「……止まったら死ぬわよ」

「うん。で、美也がまた泣く」


……それはさすがに否定する材料が見つからない。

充は黙ったままでいる私の顔にそっと手を添えて、自分の方を向かせた。


「俺が死んだら、泣くでしょ?」


わかってるくせに、いちいち聞かないでよ……

あなたの求めてる答えは、言ってあげないんだから。


「……私より若いんだから、先に死ぬなんて許さない」


彼の瞳を見つめてそう言うと、頬に触れる手が熱を帯びて、充の顔が近づいてきた。

胸が高鳴り、自然とまぶたを閉じた私。

そして唇と唇の距離が限りなくゼロに近付いたその時――



「――少しは俺の立場ってものを考えて欲しいんですけど」



ぴたっと動きを止めた私たち。

そして二人そろって声のした方を振り向けば、扉の枠にもたれて腕を組み、呆れた顔をする霧生くんの姿が。

そ、そういえば電話で話した時にも不思議に思ったんだった。

どうして充と霧生くんが一緒にいるのかって……


「霧生さん。あと数秒だけ待ってくれればよかったのに」

「そりゃいやがらせに決まってるじゃないですか。泣く泣く諦めた女とライバルとのキスシーンを黙って見てるわけがないでしょ」


……しかも、なんか仲良さそう。そして霧生くんもどうして配達員の格好?


「……それもそうですね。で、アイツは何か吐きました?」


私から離れた充が、そう言いながら霧生くんの元へ歩み寄る。


「ええ、あっさり吐きましたよ。社長の予想とは違ったみたいですけど」

「え……?」


< 140 / 165 >

この作品をシェア

pagetop