ゆとり社長を教育せよ。



「……まさか、彼女だったとはね」

「うん。ちょっと……いや、かなりショックだよ……私」


千影さんを最寄りの警察署に連れて行き、それから私たち自身も事情を聴かれて、やっと解放されたのはかなり遅くなってからのこと。

霧生くんとはその場で別れ、私は充の車で自宅へ送ってもらうことになった。


「そういえば、今日はオープンカーじゃないんだね。……あ、そっか。私はもうヒロインじゃないってことよね。秘書だもんね、ただの」

「……何言ってんの、今さら。俺の胸で泣いておいて」

「あ……あれはその……」


ごにょごにょと口ごもりつつ、さっき彼に泣きついてしまった自分を思い出して恥ずかしくなる。

そういえば、もうちょっとでキスまでしてしまうところだったんだっけ。


「犯人が分かって、美也の心配することはもう解決したわけだし……復活させてもいいんじゃないの? 俺たちの関係」

「……そんな、全部私に委ねるみたいな言い方はずるい。充が、どう思ってるのか……ちゃんと、聞かせて欲しい」


私が別れようって言った時彼がすぐにそれを呑んだのは、本心からではないとわかっていても、やっぱりショックは受けたもの。


「俺は……」


いつの間にか私の自宅アパートに到着していた車が、その前で停まる。

ハザードがかちかち鳴る音よりも私の鼓動の方が速くて、その胸の高鳴りが最高潮に達したときに、充がハンドルに身を預けつつ私の方を見つめてこう言った。



「美也が好き。早く部屋に上がって、さっきおあずけくらったキスの続きしたくてしょーがないくらい」



< 141 / 165 >

この作品をシェア

pagetop