ゆとり社長を教育せよ。
……か、かわいいこと言うじゃないのよ。
っていうか、その、うるうるした目で見るの、やめて!
理性がどかんと弾けて、ここで“続き”したくなっちゃうから――。
「……で。俺だけに言わせて美也からは何もなし?」
「……私は、いいの」
「あ、ずるい」
「それより部屋に上がる気なの?」
「うん。もちろん。だって、美也、今日は怖い思いしたから一人で寝れないだろうし」
……それは、確かに。
隣の部屋にはもうあのストーカー男がいないとわかっていても、きっと小さな物音にも反応してしまって、眠れる気がしない。
「……じゃあ、充が車停めてる間に少し部屋片づけておく」
「了解。――あ、そうだ、これ」
ふいに充が後部座席から取り出した段ボール箱。
それは、千影さんが本物の宅配業者に頼んでいたらしい、私への不気味な誕生日プレゼントだ。
アパートの通路でそれを抱えていた配達員さんと偶然出会い、送り状に【高梨美也様】と書いてあったことから、充と霧生くんは私の居場所が分かったのだそう。
そして千影さんを油断させるため、その配達員さんと、路上で待機していた運転手さんの二人に帽子とジャンパーを借りて、二人は“ゆとり急便”へと華麗に(?)変身を遂げたんだとか。
「気になるから、開けてみない?」
「……え。いいわよ、気持ち悪いから――って、もう開けてるし……」
無造作にガムテープをはがして箱を開いた充。
その中を覗いて何故か固まる彼を怪訝に思い、私もそっと箱の中身を確認してみると。
「まじか、これ。俺、間に合ってよかった……」
「……私、もしかしたらこういうのなんじゃないかって、思ってた……」
箱の中身は、銀のチェーンとそれにつながった革製の首輪(しかも鍵つき)。
背筋に寒気が走った私はそっと箱を閉じた充と顔を見合わせ、今のは見なかったことにしよう、と二人で大きく頷き合うのだった。