ゆとり社長を教育せよ。
……はぁ? 何を言ってるんだこのゆとりわんこ王子は。
今の台詞を聞いて、私の頭に浮かんだ映像は。
“お母さん、ぼく明日学校行きたくないから代わりに連絡しておいて”
……と、ゲームか何かやりながら親に頼む、だらけた学生の姿。
彼の行く末は、よくてフリーター、悪くてニートだ。決して社長の器ではない。
もう、呆れるのも通り越すわよ……
「明日社長に休まれますと、全国に500店舗ある総合スーパーとの契約が破綻。
来春発売予定の苺チョコレートの試食会が中止になり、開発部の仕事がストップ。
それから、“半熟カカオキッス”発売イベントに出演いただく俳優の高柳遠矢(たかやなぎとおや)さん、司会者、関係スタッフに、イベント中止の旨をお伝えして出演料+キャンセル料をお支払いする手続きを――――」
「わ、わかった。休まないよ! っていうか、ほんの出来心で言ってみただけなのにそんな脅しみたいなこといわなくたって……」
パーマがかった長い前髪を指で弄びながら口を尖らせる姿は、まるで子供。
はあ……なんだかほんとに自分がこの人のおかーさんにでもなった気分だわ。
「では、明日は休まれないのですね?」
「……うん」
「私に対しては構いませんが、いつもそうした受け答えですと外で必ずぼろが出ます。返事は“はい”。会話は極力敬語でお願いします」
「えー? ……っていうのは敬語でなんていうのかな。“それ、正気の沙汰ですか?”とか?」
……くっだらない。もう帰ろう。社長と話してると疲れる……