ゆとり社長を教育せよ。
そして数分後。目の前に停まったのは、車に詳しくない私でも知っている有名な高級外車だったけれど……
ちょっと乗るのを遠慮したくなるオープンカーだった。
「お待たせしました」
外装はシルバーなのに、シートやハンドルは赤で統一されたお洒落な車内から降りてきた社長が、助手席のドアを開いて私をエスコートしてくれる。
相手がこの人でなければちょっとトキめいたのかもしれないな。なんて失礼なことを思いつつ、乗り心地のよさそうなシートに腰を滑らせた。
……それにしても、屋根がないのは落ち着かない。
社長に家の住所を告げて、彼がナビにそれを入力すると、夜のドライブがスタートした。
冷たい十月の風を遮る壁がない車はやっぱり少し肌寒い。
けれどゆとりくんに女性を気遣うことなんてできないらしく、私が身を縮めて腕を擦る素振りを見せてもただ機嫌良さそうにハンドルを握っている。
……ま、いいけどね。
それにしても今日の私、一気に色々な災難に見舞われ過ぎじゃない?
この人の秘書になったってだけでも、ズシンと心に重りを乗せられたようなものなのに、意中の相手からのプロポーズを断らなきゃならず、しかもそいつに襲われかけて、なぜかオープンカーで社長とドライブ……
うーん、濃すぎる一日だわ。
「高梨さんて、将来の夢なんでした?」
「はい?」
……わ、急に話しかけられた。
しかも、将来の夢って?
「俺の勝手なイメージですけど、高梨さんは子供の頃からちゃんとした職業考えてそうですよね。看護師とか保育士とか……
あ、でも保育士は似合わないか。んー、あとは学校のセンセとか」
「……どうせ私は怖い顔ですよ。でも、あなたのお世話は園児より大変そうですけど」
ふん、嫌味には嫌味で返してやる。
社長のお世話が大変そうっていうのは本当のことだしね。