ゆとり社長を教育せよ。
本日一番の仕事は、大手総合スーパー“サンシャイン”の本社を訪問しての社長との商談。
少々生え際が後退しているサル顔で五十代の目黒(めぐろ)社長は、見た目はともかくうちの問題児、加地社長とは違って、当たり前だけどやり手のトップだ。
「――ほう、なるほど。それで、売り場の拡張を?」
「ええ。ウチの主力商品である“チョコっとわんこ”のキャラクターをLINEスタンプで配布してみたところ、売り上げが……ええと、どれくらい伸びたんだっけ?」
たいして考える素振りもなく、私に助けを求めてきた非・やり手のうちのトップ。
あんたの手の中にある資料を見ろー!
っていうかここへ来る前に、車の中でリハーサルしたでしょうが!
……と、怒鳴りたいのを必死にこらえ、事務的に私は答える。
「前年比115.6%です」
「そうそう。ですんで、新商品に関しても是非、他社メーカーよりも広めに売り場を確保していただきたくて」
質問に答えられてほっとしたのか、ソファの背もたれにどすんともたれて足まで組んでしまった加地社長。
それは取引先で取る態度じゃないでしょうが! こっちはいっぱい商品買ってってお願いに来てるの! 偉そうにしちゃダメなの!
私の中のリトル美也は、ワナワナと震えて爆発寸前。
放っておいたらリアル美也も歯ぎしりを始めそうだったけれど、目黒社長は意外に寛大な人だったみたい。
「――わかりました。正直、他社さんにも同じことを言われていますけど、おたくの秋冬の新商品はなかなか目新しいし、それに賭けてみることにしましょう」
まさにサンシャインなオデコをいっそうテカらせながら、彼は笑顔でそう申し出てくれた。