ゆとり社長を教育せよ。
「なんか、全然“俺の”――って気がしない」
「……はい?」
相変わらずぶーたれてる社長は、机に頬杖をついて上目遣いに私を見る。
「今朝のセクハラ事件のとき、助けを求めてくれなかったし」
……セクハラ事件。ああ、サンシャインのまばゆい社長のあのたわけた発言ね。
いやいや、あの場合社長に助けを求めるって発想にはならないでしょう。
結果的には助けられたし、その判断はありがたかったけど……
社長の言わんとすることが読めずに黙っていると、彼はなおも話し続ける。
「開発部の人となんかイイ感じになってるし」
「……開発部?」
「一人親しげな人いたじゃないですか」
もしかして、霧生くんのこと?
そう思うと、ちょっとだけ動揺してしまう自分がいた。
「……彼とは同期なので」
「それだけじゃない感じがしましたけど」
ゆとりくんのくせに、生意気にも探るような視線を私に向けてくる。
……確かにそれだけじゃないけど。でも、社長にはなんにも関係のないことだし、完全にプライベートな部分だ。彼に言う必要はない。
「……だとしても、社長には関係ありません。さ、早く書類に判を――」
「それってさ、なんかズルくない?」
ぎし、と音を立てて、キャスター付きの立派な椅子から立ち上がった社長。
彼はそのまま私の目の前までゆっくり歩いてくると、黒目がちの大きなの瞳に私を映しながらこう言った。
「俺の秘書でいる間、恋人作るの禁止――って、どうですか?」