ゆとり社長を教育せよ。
「その条件を飲んだら……心を入れ替えてまじめに仕事をして下さるんですね?」
「うん……じゃなかった、はい。今までよりは頑張ります」
……珍しく、殊勝な態度じゃない。これなら信用しても大丈夫かもしれない。
「……わかりました」
挑戦的な目で社長を見つめながら、私はそう言った。
こうなったら、もう意地だ。
とはいえ私だって恋愛したくないわけじゃないから、さっさとこの人を成長させて、まともな社長になってもらおう。
私が腕を組み、脱ゆとりに向けて色々脳内でシミュレーションをしていると、正面に立つ社長はこんなことを言った。
「よかった。これで高梨さんのこと、誰にも盗られずに済みますね」
……はい?
「……どういう意味ですか?」
眉根を寄せて見上げた彼の顔は、にこにこと無邪気に笑ってて。
「そのままの意味です。さ、仕事しよっかなー。判子押すんですよね? 書類はどこですか?」
「あ、はい。ただいまお持ちします」
書類なら、きっと秘書室の私のデスクに届いているはず。
それを取りに行くために社長室の扉を出て、廊下をつかつかと歩きながら思う。
今の発言はなんなのよ……。
あのゆとり王子が私を盗られて困る要素がわからない。
彼が私に抱いている印象はたぶん“怖い”とか“厳しい”とか“うるさい”とか、そういうネガティブなものばかりでしょう?
そんな相手に、あんな甘い笑顔向けるの、やめてよね……
何故だか無性にイライラするのを振り切るように首を横に振ると、私は秘書室へと急いだ。