ゆとり社長を教育せよ。
5.二大イケメン対談
俳優さんのスケジュールに合わせて延び延びになったイベントは、二週間後にようやく行われた。
「――この口どけ、まるでキミの唇」
モデル並みのすらりとした体型に、最近の若い女子にはたまらないしょうゆ顔。
そんな彼が、意外と低音な甘いボイスでそうささやくと、大勢のファンの黄色い歓声と、カメラのシャッターが一斉に切られる音で会場は騒然となった。
「すごいですねー、高柳さん」
舞台袖でその様子を見ていた加地社長は、自分もまるで観客の一人みたいにそんなことを言う。
「あと数分もすれば社長もあそこへ立つんですから、もう少し緊張感を持ってください」
「えー? だって、俺があの人の隣に立ったところで引き立て役にしかならないし」
まぁ、確かにそうね。でも、それは私があなたの頭がからっぽだっていうのを知っているから余計にそう見えるのかも。
見た目だけを客観的に評価すれば、社長はそこら辺のアイドルや俳優よりもよっぽど整った顔立ちをしている。
「……中身を知らなければ、いい勝負だと思いますよ。ええ、中身を知らなければ」
「同じこと二回も言わなくていいですよ……」
社長が私に向かって苦笑すると、司会者の女性から「それでは、もう一人のイケメンに登場してもらいましょう!」とお呼びがかかった。
実は、今日のイベントの目玉は、高柳さんと加地社長の二大イケメン対談。
偶然にも二人は同い年らしく、そこに目を付けた宣伝部が、イケメン効果での売り上げアップを期待して組んだ企画らしい。
交わされる会話の内容は前もって渡された台本の通りだから、特に私の心配するようなことはないと思うけど……
ゆとりくんには万が一ってこともありそうだから、舞台袖に残された私はハラハラしながら社長の背中を見送っていた。