ゆとり社長を教育せよ。
明るすぎるくらいの照明を浴びて、社長は会場に集まる報道陣と高柳さんのファンに向けて、手を振りながら出ていった。
さすがに芸能活動が本職の高柳さんには声援の数は劣るけど、そこかしこから「きゃー」という悲鳴が上がり、社長はまんざらでもない様子ではにかんでいる。
……彼にはいっそこういう仕事の方が向いてるのかしら?
いやいや、そんな簡単な世界じゃないだろうから、ゆとりくんみたいな態度じゃすぐに干されて終わりよね。
マネージャーになる人だって可哀想。
なんて、勝手に妄想した加地社長の芸能生活を悲観しているときだった。
「――え? うちの秘書ですか?」
「はい。お二人で楽屋に挨拶に来られた時に、実はものっすごい彼女のことガン見してました」
舞台上の二人がそんな会話をしていて、私は我に返った。
秘書。なんでそんな話の流れになってるんだろう。
“彼女”って言った時の高柳さん、こちらを見ていたような気もするけど、気のせい?
「確かに美人ではありますけど、彼女相当怖いですよ。鬼です」
……いや、気のせいじゃない。ゆとりくんは今明らかに私を見て“鬼”と言った。
って、なんで台本にない会話してるわけ? ていうか、鬼っていくらなんでも失礼だし!
「それくらいが好みなんですよ。俺ってМなのかなー」
ははっと爽やかに高柳さんが笑うと、ファンの女性が悲鳴を上げる。
観客側からはこっちが見えてなくてよかった……見えてたら、私ここの会場から出るときに、絶対誰かに刺されそうだもの。