ゆとり社長を教育せよ。
「社長さんは、どんな女性がお好きなんですか?」
高柳さんが尋ねると、社長は私のいる方をちらっと一瞥してからこう言った。
「俺は、高柳さんとは真逆ですね。はかなげで、守ってあげたくなるような、女の子らしい人が好きです」
……はいはい、知ってる知ってる。っていうか何で一度こっちを見たわけ?
“お前なんか眼中にねーよ”的なことを言いたかったんだとしたら、その台詞そのままお返しするんですけど!
しかも、こういう時は“俺”じゃなくて“僕”か“私”を使えって散々言ってあったのに、全然できてないし……
怒りのあまり、手に持っていた台本をくしゃっと握りつぶすと、近くにいたスタッフが怯えた顔で私を見ていたので、私は慌てて愛想笑いでごまかした。
……もう。ゆとりくんのせいで、本当に鬼だと思われたかもしれないじゃない。
「それでは、お二人に今一度盛大な拍手を~!」
私が苛ついている間に二人の対談は終わっていて、司会者の声を合図にこちらに下がってきたイケメン二人。
先を歩く高柳さんが、爽やかスマイルで会釈して来たので私も深くお辞儀をすると、落とした視線の先にある自分の手に彼の手が触れた。
「え、あの……」
それはほんの一瞬の出来事。
触れたと思ったらすぐに離れて行った高柳さんの手は、私の手の中に小さな紙切れを握らせていた。
それは、なんとなく人に見られちゃいけない物のような気がしたから、咄嗟にスーツのポケットに隠したけど……一体どういう意味?
ぼうっと彼の背中を見送っていると、もう一人のイケメンが私の元へ戻ってきて、何故だか不機嫌そうな様子でこう言った。
「今隠したもの……没収するから出して下さい」