ゆとり社長を教育せよ。


今の、まさか見られてた……?

でもだからって、なんで没収されなきゃならないのよ。


「隠しているものなんて何も」


無表情でしらを切る私に対し、社長はなおも面白くなさそうな表情のままで言う。


「高柳さんに好みだとか言われて、いい気になってるんですか? あれ、たぶんファンを惑わすための嘘ですよ。
ほら、芸能界に彼と噂になってる女優さんいるじゃないですか」

「別に、いい気になんて……!」

「まぁあんなカッコいい人にああいう素振り見せられたら、舞い上がるのもわかりますけどね。
――とにかく、彼から受け取ったものは没収です」


むかつく……。私のこと、浮ついたミーハー女みたいに言わないでよね。

でも、これはもしかして、“恋人作るの禁止”――っていう、あの約束の一環?

だったら、不本意だけど従うしかない……仕事を円滑に進めるためにも。


私はポケットに手を入れて小さな紙を取り出すと、社長に差し出した。

何が書いてあるのかくらい知りたかったけど、高柳さんなんてもう二度と会うことのない人だろうし、関係ないわよね……


「今夜九時、みなと公園にて待つ」

「え?」

「……って書いてあります。意外と軟派なんだなーあの人。こんなメモ用意しちゃって」


ぴらっと、メモの書かれた面を私に見せてきた社長。

なんなの? なにがしたいのこの男は……


「でも、高梨さんは行けませんよ。今日は残業してもらいますから」

「……残業?」


いつもはさっさと帰ろうとするくせに、今日に限ってなんで残業?

社長のやるべきことはちゃんと時間内に捌けるように予定を組んでいるのは私だし、特にやることはないと思うんだけど……


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