ゆとり社長を教育せよ。
「でもそうやって自分の非をちゃんと認めるところは、高梨さんらしくて好きです」
「……はい?」
――聞き間違い?
だって、社長の好みって、守ってあげたくなるはかなげなふわふわ系女子でしょ?
「さ、買い出し行きましょう! ちなみにハンバーグの材料は俺がわかってるので大丈夫です。高梨さんはただこの手を離さないでついてきてくださいね」
……こんにゃろ、話、はぐらかしたわね?
っていうか、“この手”ってなに――?
なにやら生あたたかい感触のする右手を見てみれば、いつの間にか社長の左手としっかり繋がれていた。
「ちょっ、これ、なんですか!?」
腕をぶんぶん振ってみても、社長の手は離れてくれない。
「だって、高梨さん危なっかしいから」
「店内に車はいないから大丈夫です!」
「でも、カートにひかれそう」
そんなわけないでしょーが! なにこれ、なんの罰ゲームなのよ!
戸惑う私を無視して、社長は繋いでない方の手でカゴを持つと店内を進んでいく。
こんなの、ハタから見たらただの仲良しカップルじゃない!
違います、断じて違うんです! 私たちはただの社長と秘書の関係なんです!と店内放送で叫びたい……
終始そんなことを思って右手を強張らせる私に構わず、社長はカゴにどんどん材料を放り込んでいく。
それを見ながら、ハンバーグにパン粉なんて入れるの?という疑問を抱いたというのは、私だけの機密事項だ。