ゆとり社長を教育せよ。
「ちょ! ちょっと! 何してるんですか!?」
じたばた暴れようとしても、私の方はシートベルトを締めたままだから思うように動けない。
それでもなんとか抵抗しようともがいていると、ふいに社長の身体が離れて行って、彼は自分の人差し指に付いた何かに、ふうっと息を吹きかけた。
そして何事もなかったかのように、こう言って笑う。
「肩に、ホコリついてました」
「ホコリ……」
放心状態でそう呟いてから、すぐ顔に熱が集中していくのがわかった。
私今、とてつもなく恥ずかしい勘違いを……!
「高梨さん、顔赤いですけど。具合悪いですか?」
わ、そんな心配そうに顔を覗かないで!
「きっ! 気のせいです! 見間違いです! ハ、ハンバーグ! 早く作りたいからさっさと部屋行きましょう!」
もう半ばやけくそ状態の私がそう言うと、社長は口角を引き上げていつもと雰囲気の違う、意味深な笑みを漏らした。
それが不覚にも色っぽく見えてしまって、ゆとりくん相手なのに飛び上がる私の心臓。
うう、さっきの至近距離が効いてるみたい……
「高梨さん、早く来ないと置いていきますよー」
車を降りても、私はかなりぼうっとしていたらしい。
気が付けば、買い物袋を持った社長は少し先に見えるエレベーターの前に移動している。
「ま、待ってください!」
冷静に考えたら置いて行かれたって困らないはずなのに。
むしろ、ハンバーグ地獄から解放されるチャンスだったのに。
完全に社長のペースにのまれてしまったらしい私は、なぜだか言われるがままに、彼の元へと走っていくのだった。