ゆとり社長を教育せよ。
2.危険なプロポーズ
間接照明がロマンチックな雰囲気を作り出すダイニングバーの個室。
お店こだわりのフルーツカクテルを次々喉に流し込みながら、私はシックな黒の皮張りソファに隣り合って座る男性に、愚痴をこぼしていた。
その内容は、もちろん加地社長のこと。
「――あぁ、うちにも居るよ。そういう社員」
「あくまで社員、ですよね? うちは“社長”ですよ? はーもー毎日ストレス溜まりそう」
「美也ちゃんが一人で抱えることなんてないよ。こうして周りに吐き出せばいい」
切れ長の一重まぶたをスッと細めて微笑んだ彼、吉田千影(よしだちかげ)さんは、私が今いいなって思っている男性。
出会いは秘書課の皆(佐和子さん以外)と行った合コンだった。
千影さんは他の男性陣とは違い必要以上にはしゃいだりせず、けれど場の雰囲気もよく読んで笑うところではちゃんと笑う、私の理想とするオトナの男性で。
職業は、IT企業のSE。
細身のスーツがよく似合っているけれど、きっと和服も似合うだろうなんて妄想したくなる、さっぱりした顔立ちの和風イケメン。
35歳という年齢も私とは丁度いい年の差だし、そろそろこうやって、ただ食事をしたりお酒を楽しむ関係から、一歩踏み込みたいなんて思っているのだけど――。