ゆとり社長を教育せよ。
「相当甘く見られてますよね、俺。少なくとも高梨さんよりは上手い自信ありますよ?」
何よその言い方。聞き捨てならないわ。そこまで言うならやってもらおうじゃないの。
私は持っていたバッグを肩から下ろし、得意げな顔をする社長を睨みつける。
「……お手並み拝見させていただきます」
「こわっ。じゃあ適当に座ってて下さい。……それにしても高梨さんって、ホント簡単な挑発にすぐ乗ってくれますよね」
「……挑発?」
「あ、今のは独り言です」
クスクス笑いながら、キッチンに向かって行ってしまう社長。……私、もしかしてハメられた?
そうだったら少し腹が立つけど、実は私、空腹なのよね。
でも料理ができないから、今日もコンビニかお弁当屋さんか、それともどこかお店に寄って食事を済ませるか……そんな切ない選択肢しかなかったから、まあ良しとしよう。
こんないい部屋を見る機会もそうそうないし、勝手に探検しちゃおうかしら。
「社長、お手洗いはどこですか?」
「あ、廊下に出て左側の二つ目のドアです」
親切に教えてくれた答えを無視して、私はこっそり色んな部屋を確認して回った。
その中で、きっと社長の寝室であろう部屋を見つけると、興味本位で中まで入ってみた。
クイーンかキングか、とにかく大きなサイズのベッドに、社長室にあるのと似たタイプの立派なデスク。
こんな机あったって、あの社長には宝の持ち腐れなんじゃ……なんて、失礼なことを思いながら何気なくそこを眺めていると、ひとつの写真立てが目に入った。