ゆとり社長を教育せよ。

「大学の、卒業式……?」


電気を点けずにいるから、開けっ放しの扉から差し込む廊下の明かりだけでは細かい部分までは見えない。

だけど、写真の中に数人いる女の子は袴姿。男子はスーツだから、きっと卒業式だろうと予想しつつ、ゆとりくんの姿を探す。

けれど彼を見つける前に、私を動揺させる人物の姿を写真の中に見つけて、私は反射的に写真立てを倒してしまった。

……そうだ。ゆとりくんの出身大学って、あの人の勤め先と同じだったんだ。


胸に手を当てて少し自分を落ち着かせると、私はそっと写真立てを元に戻した。

そして、学生の後ろに立って微笑んでいる一人の男性の姿を見つめる。

――彼はかつて私の恋人だったひと。

頭が良くて、背が高くて、いつも大人の余裕と優しさがあって……彼の転勤がなければ、きっと今でも別れていなかった。



「……今頃、何してるのかな」



あんなに素敵な彼のことだ。

きっと結婚して子供もいて、転勤した先の大学でも、学生たちに人気の教授なんだろう。

私はなんだか無性に切なくなって部屋を飛び出し、いい香りの漂う広いLDKへとすごすごと戻った。


< 54 / 165 >

この作品をシェア

pagetop