ゆとり社長を教育せよ。
7.ゆとりキャラ誕生秘話
-side 加地充-
「あーあ、また怒らせちゃったな」
高梨さんが帰ってしまった後、俺は二人分の食器を流しに片づけながら、そんな風にひとり呟いていた。
初めて会った時も、彼女は俺を睨んでた。
窓から西日の差し込む、大学の廊下で……
*
「……ダンスパーティー?」
「はい。学祭のイベントの一環で。俺、ずっとパートナーをを探してたんですけど、たった今、お姉さんに運命感じちゃったなーって。ちなみに、何学部ですか?」
――俺が大学四年のときの話だ。
早足でヒールを鳴らして廊下を歩く美人を見つけて、軽い気持ちで彼女に声を掛けたんだ。
それが、当時の高梨さん。あの頃から長い黒髪が印象的だった。
「……私はこの大学の学生じゃないし、だいいちあなたみたいな軽そうな人と踊りたくなんてありません。さよなら」
「ちょっ……ちょっと待って!」
今では女の子らしい人が好みだなんて言っているけど、本当は高梨さんみたいな顔はどストライク。
むしろ、彼女に拒絶された腹いせというかなんというか、当てつけのように自分の好みを偽っているフシがある。
ま、それはいいとして。
とにかく高梨さんはかなり好みの顔だったから諦めきれなくて、なびく黒髪をそのまま追いかけていったんだ。
講堂を抜けて、中庭を横切り、職員棟に入って、階段を上がり……
最上階まで来ると、今までカツカツと小気味よく鳴っていたヒールの音が止まって、彼女の姿が消えた。
「どこだ……?」
誰もいない廊下をゆっくりと進みながら、俺は首を傾げる。
ここは、大学で働く教授たちの研究室が並んでいるフロア。
うちの学生ならまだしも、そうでない彼女がこんな場所に何の用が……