ゆとり社長を教育せよ。
7.ゆとりキャラ誕生秘話

-side 加地充-



「あーあ、また怒らせちゃったな」


高梨さんが帰ってしまった後、俺は二人分の食器を流しに片づけながら、そんな風にひとり呟いていた。

初めて会った時も、彼女は俺を睨んでた。

窓から西日の差し込む、大学の廊下で……







「……ダンスパーティー?」

「はい。学祭のイベントの一環で。俺、ずっとパートナーをを探してたんですけど、たった今、お姉さんに運命感じちゃったなーって。ちなみに、何学部ですか?」


――俺が大学四年のときの話だ。

早足でヒールを鳴らして廊下を歩く美人を見つけて、軽い気持ちで彼女に声を掛けたんだ。

それが、当時の高梨さん。あの頃から長い黒髪が印象的だった。


「……私はこの大学の学生じゃないし、だいいちあなたみたいな軽そうな人と踊りたくなんてありません。さよなら」

「ちょっ……ちょっと待って!」


今では女の子らしい人が好みだなんて言っているけど、本当は高梨さんみたいな顔はどストライク。

むしろ、彼女に拒絶された腹いせというかなんというか、当てつけのように自分の好みを偽っているフシがある。


ま、それはいいとして。

とにかく高梨さんはかなり好みの顔だったから諦めきれなくて、なびく黒髪をそのまま追いかけていったんだ。

講堂を抜けて、中庭を横切り、職員棟に入って、階段を上がり……

最上階まで来ると、今までカツカツと小気味よく鳴っていたヒールの音が止まって、彼女の姿が消えた。


「どこだ……?」


誰もいない廊下をゆっくりと進みながら、俺は首を傾げる。

ここは、大学で働く教授たちの研究室が並んでいるフロア。

うちの学生ならまだしも、そうでない彼女がこんな場所に何の用が……


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