ゆとり社長を教育せよ。


だから……その夜ダーツバーで高梨さんが彼氏っぽい男の人と一緒に居るのを目撃したときは、正直面白くなかった。

会社では絶対にしない柔らかい表情をして、たまにボディタッチなんかもしてて。

彼女相変わらず年上好きなのか……

ビリヤード台のある方に居た俺は、そう思いながらちらちらと、二人の様子をうかがっていた。


その後、ゲームに夢中になって少しの間二人から目を離していた俺。


「と、とりあえず外に出ましょう、ねっ?」


けれどふいに高梨さんの焦った声が聞こえて、思わず手元が狂った。

キューで弾いた球は思わぬ方向へ転がり、周りに居た遊び仲間が俺をひやかす。

ため息をついて再び彼女の様子を窺うと、さっきの男に引っ張られるようにして、店から出て行くところだった。


「ごめん……ちょっと外出てくる」


仲間にそう言い残して店の外に出ると、路地裏に入っていくふたつの影が見えた。

直感でさっきの二人だと確信した俺は、考えるより先にこう叫んでいた。



「――お巡りさん! こっちです! 男が嫌がる女性を無理矢理に!」



幸い、彼女に乱暴しようとしていた男はキモの小さい奴だったようで、俺の嘘であっさりその場から離れてくれた。

でも、心配なのは彼女の方。

仕事中はツンツンしてるけど、きっとこういう場面に高梨さんは弱いから――……



「あの、ありがとうございました……」



ぺこりとお辞儀をして顔を上げた彼女を月明かりが照らすと、目尻にキラキラと涙の跡が光っていた。

やっぱり、泣いてた。

大学時代に見たのと同じ、キレイな泣き顔……


俺は彼女を好きなんだろうか。こうして見せられる彼女の色んな表情は、他の男には見せたくないと思う。

この独占欲みたいな気持ちは、やっぱり……



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