ゆとり社長を教育せよ。
始めこそ「却下」と言っていた彼女だったけど、俺が仕事に真面目に取り組むという交換条件を出したら、その提案を聞き入れてくれた。
俺を睨む強い眼差しから、たぶん意地になってるんだろうなーというのが簡単に想像できて、そんな高梨さんがまた可愛く見えて。
俺をまともな社長にするためなら、そこまでしてくれるんだ。
――なんて、口に出したら絶対に怒られるから言わなかったけど、俺は嬉しかった。
とにかく、あの約束さえあれば、高梨さんはしばらく誰のものにもならない。
そう思って安心していた矢先に……また新たなライバルが出現した。
我が社の新商品の発売イベントに出演した、俳優の高柳遠矢だ。
あんな公衆の面前で、俺の秘書に興味があるみたいなこと言って。
タレントからそんなことを言われたら、普通の女子は悪い気はしないはず。
つーか、あんなの反則だろ。
人気俳優に気に入られて、高梨さんもまんざらじゃないのか?
そう思ったら刺々しい気持ちが膨らんできて、俺は彼女を“鬼”だとか、自分の好みは女の子らしい人だとか、言わなくてもいいことを口にしてしまった。
それでちょっと自己嫌悪に陥ったのもつかの間。
対談が終わって舞台から去る時に、高柳(同い年だしむかつくから敬称略)が彼女に何か渡しているのを目ざとく発見した俺は、気に食わないという思いを抑えきれなくなった。
彼女が高柳から受け取ったものを奪うのはもちろんだけど……
「今夜、うちにゴハン作りに来てください」
かなり無理矢理な“残業”だとは自分でもわかっていたけど、高梨さんと二人きりの時間を過ごしたかったんだ。
まさか料理が下手だとは最初は知らなかったものの、それに気づいたあとは彼女をからかうのが楽しくて楽しくて――――