ゆとり社長を教育せよ。
*
「……でも、怪我までさせちゃったのは、悪かったな」
キッチンがあらかた片付くと、俺はそう呟いてリビングの方へ向かう。
そしてソファの上に投げてあった自分のビジネスバッグを開いてその中から何枚かの書類を取り出した。
『明日の朝イチの会議……専務から何か提案があるみたいですね』
それはさっき高梨さんが言っていた、会議の資料。
脚を組んでソファに深く腰掛け、ぱらっと一枚捲ってみると、そこには驚くべきことが書かれていた。
「これ……」
会社にいるときになんで目を通しておかなかったんだろう。
っていうか、高梨さんもこれと同じものを持っているはずなのに、どうして何も言ってくれなかったんだ?――――って。
「あぁ……俺のせい、かも」
俺が、仕事の話より、もっと楽しい話を――なんて言って、彼女の話を遮ったから。
思わず額に手を当て、ため息をつく。
そして再び資料に目を落とすと、中身を真剣に読み始めた。
こんな提案をされてしまったら、さすがに“ゆとり社長”のままではいられない。
さて、この会議をどう乗り切るか……明日は少し早く出社して、高梨さんと相談した方が良さそうだ。
一通り資料を読み終わった俺は、それをばさりとテーブルの上に放ると、シャワーを浴びるためにバスルームへ向かった。