ゆとり社長を教育せよ。
8.天狗俳優を懲らしめろ
社長に振り回されて最悪だった昨日に引き続き、今日もいやな予感がする。
大事な会議の資料を会社に忘れて、朝早く取りに来る羽目になっているこの状況が、もうそのことを暗示してる。
「あった。これだ……」
忘れ物を見つけたのは、秘書課の自分のデスク。
昨日のうちに最初のページだけは目を通しておいたから、おおまかな内容はわかってる。
確か、来年の春から社員の海外研修制度を始めようっていう話だったはず――
「――え?」
これ……どういうこと?
ぺらぺらと資料を流し読みしていた手が止まり、私はある一文を人差し指でなぞる。
“社長、一カ月前に現地入り”
――現地ってどこ? 期間は?
さらなる情報を得るため資料を読み直そうとすると、自分のデスクの上の電話が音を立てた。
始業時間までにはまだ四十分くらいあるのに、こんな早くから誰……?
資料をデスクに置き、私は受話器に手を伸ばす。
「はい、秘書課高梨――」
『あ、あのっ! 受付なんですけどっ!』
ちょっと。声裏返ってるけど……。
いつもは落ち着いて受付の業務にあたっている彼女の声は聞き慣れているから、そのあからさまな動揺ぶりに眉を顰める私。