ゆとり社長を教育せよ。
「受付? 俺に来客ってこと?」
「よくわからないんですけど、なんか鷹が来てるらしくて……」
「鷹……? まさかあの――いや、何でもないです。でも気になるから俺も行こっかな」
社長がどっちの鷹を想像したのかは知らないけど(八割方人間の方だと思う)、そう言った彼は興味津々な様子で私のあとをついてくる。
エレベーターで一階に降り、一面ガラス張りになっているエントランスから差し込む朝陽に目を細めながら、二人で受付に向かう。
すると、電話で話したとき同様、かなりテンパった受付嬢二人の前に立っていたのは――
「あ。おはようございます。昨日のイベントではお世話になりました」
私たちを照らす朝陽といい勝負、もしくはそれ以上の爽やかさで微笑む男性。
彼は耳に心地いい低音ボイスでこちらに挨拶すると、すらりと長い脚でこちらに近づいてきた。
「高柳さん……?」
「なんで、あなたがここに……」
そりゃあ、昨日のイベントはもちろん、商品のCMにも出演してもらっている彼だから、うちの会社と無関係なわけではないけど。
事務所やマネージャーを通さずに、俳優さん自らがここを訪れる理由がよくわからなくて、私も社長もかなり驚いて彼を見つめる。
「これから、近くのスタジオで“半熟カカオキッス”の新しいCM撮るんです」
けれど高柳さんはそんなこと気にも留めてない様子でそう言った。
「……それで?」
あれ? 社長、なんか機嫌悪い……?
高柳さんの前にずいっと出て行って、喧嘩腰に聞こえなくもない口調でそう言ったゆとりくんの後姿は、なんだか刺々しいオーラを纏っている気がした。