ゆとり社長を教育せよ。


社長がいなくなってしまうと、高柳さんが急にこんなことを言い出す。


「昨日、ずっと待ってたんですよ?」

「はい?」


いきなり二人きりにされてしまったこの状況を飲みこむだけでも大変なのに、そんなことを言われてもわけがわからない。


「あのメモ、見てくれたんですよね?」

「メモ……? ああ!」


“今夜九時、みなと公園にて待つ”――っていう、あれのこと?

つまり、彼は本当に私のことを公園で待ってたの?


「すみません……まさか本気とは思わなかったんで。それに……」

「それに?」

「社長に残業を命じられまして」


……それも、かなり理不尽な。

というのは心の内で呟くだけにして、小さくため息をつく私。

すると、高柳さんが何故か含み笑いをしてこう言った。


「……やっぱり。二人はお付き合いされてるんですか?」

「は?」


……いや、今の聞き返し方はちょっと失礼すぎよ、私。

でも、高柳さんがあまりに変なこと言いだすんだもの。

私とゆとりくんが付き合うですって?

ないない、たとえ地球上に私と彼の二人だけになったとしてもゴメンだわ。一人きりで地球の終わりに立ち会う方がマシよ。


「あー、じゃあ社長さんの片思いなわけですね?」


名案が浮かんだとでも言うように、ぽん、と手を叩いて見せる高柳さん。

この人、さっきから的外れなことばっかり何言ってるのかしら。

ゆとりくんと同い年なだけあって、顔がいいだけで知性はマイナス?


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