ゆとり社長を教育せよ。
あれよあれよという間に連れて来られたスタジオ。
私は挨拶をする間もなく控室でメイクを施され、「これに着替えてください」と渡された服を身に付け、これから高柳さんといちゃいちゃ……するのであろう部屋のセットの前で待たされていた。
「あの、高梨さん……」
ふいに背後からかけられた声。
自然とそちらを振り返ると、スーツ姿の若い女性が私を見てぺこりと頭を下げた。
誰だっけ……? つい最近、どこかで会ったような気もするけど……
「あ、私、高柳のマネージャーの間宮と申します!」
「ああ! 昨日イベントで……」
「今回は高柳が無理を言って申し訳ありませんでした。彼、最近ちょっとわがままの度が過ぎていて。
イベントの日にちをずらしたのも、関係者の方々には体調不良なんてお伝えしましたけど、本当はただの二日酔いで……」
そう言った間宮さんは本当に困っているのか、泣きそうな表情で唇を噛んでいた。
わー。間宮さんの気持ち、わかる! 私も問題児のお守りに毎日手を焼いているもの!
激しく親近感を覚えた私は、彼女にこう話しかけた。
「……この世界ってもっと仕事に対して厳しいイメージがあったんですけど、彼みたいな若い俳優のわがままが通用しちゃうものなんですか?」
私の疑問に、間宮さんはますます困った顔をする。
「本来は、通用しちゃダメだと思うんですけど……今、どの番組も彼が出れば視聴率が取れるのは事実なんです。だから、周囲が彼をありがたがるあまり、本人はすっかり天狗になってしまって……」
……なるほど。あの若造の鼻は今伸びきってるってわけね。
なんだか他人事とは思えない。
それに、このままわがまま放題を続けていたら、彼のためにもならないと思う。
ここは一度、天狗さんを懲らしめる必要がありそうね……